「マルチュク青春通り」「卑劣な街」などのユ・ハ監督の最新作、映画「霜花店(サンファジョム)」が今日公開された。幸いにも韓国旅行中に観ることができた。
この監督はクォン・サンウやチョ・インソンなどの人気俳優を起用しているが、いわゆる韓流映画とは異なりニュアンスに富んだ、何とも言いようのない繊細な感情を表現する監督だ。思春期、そして若い頃に、誰しもが経験した切ない感情を体験させてくれる監督、とも言えるだろうか。
詩人だったというこの監督の独特の世界観がとても好きで、今回の作品も楽しみにしていた。
この映画は、ゲイである王と護衛武士、そして王から愛されることのなかった王妃の三人の、繊細で悲しい愛の物語である。
王は寵愛する護衛武士に後継ぎを残すように命じ、護衛武士は王妃を知ることになるが、この王妃の存在によって王と護衛武士との関係が壊れることになる。王妃によって人を愛することを知った護衛武士は、次第に王から気持ちが離れてゆくことになり、クライマックスを迎える。
ストーリーがわかりやすすぎる(単純すぎる)という意見もあるようだが、この映画はストーリーを楽しむ映画ではなく、むしろシンプルなストーリーだからこそ、微妙なニュアンスが味わえる映画であるように思う。複雑なストーリーではこの作品が壊れてしまうようにも思った。
物語の後半、関係が壊れはじめた王と護衛武士とが、複雑な気持ちを胸にしながらもかつてのように共に琴を奏でる。言葉を交わすことはなく、しかし互いに幸せだった頃を懐かしみながら、かすかに微笑み合うだけの場面なのだが、これがとても悲しく、また一時の安らぎのようでもあり、とても印象的だった。この映画の妙は、全てここに凝縮されていると言っても過言ではないように思う。
映画を通して俳優の演技力が目立っており、主演のチュ・ジンモは圧巻(ゲイの王様という設定も、どこか女性的なチュ・ジンモにはぴったり)。ソン・ジヒョは女性にしては珍しく落ち着いた低い声であるが、この声もまた魅力で、自然な顔の美しさやゴージャスすぎない身体を持った女優を選んだというユ・ハ監督の意図には頷けるものがあった。またチョ・インソンは、王に飼われていた “籠の中の鳥” が向こう見ずに飛び立ち、そして果てる、若さゆえの衝動を初々しく演じていたように思う。
映画は明洞からすぐ近くの忠武路(チュンムロ)という映画の街にある大韓劇場にて鑑賞。初日であったため、劇場にはユ・ハ監督、主演のチョ・インソン(護衛武士の大将)、チュ・ジンモ(王)、ソン・ジヒョ(王妃)、そしてシム・ジホ(護衛武士でありチョ・インソン演じる護衛武士のライバル)の4俳優が登場し、舞台あいさつが行われた。
残念ながら何を話しているかはわからなかったが、あの役を演じた俳優陣を目の前で見ることができたのは得難い経験であった。
なお、霜花店はゲイ映画の一作としてとりあげられており、確かにそうなのだが、ゲイだとかゲイでないといったことを超越して(というかゲイにこだわるのはナンセンス)、切ない感情を表す一本だった。どの場面を観ても楽しいと思える部分がなく、常に哀しさに満ちた映画だった。
字幕もないため、今回は映像だけでストーリーを理解したが、台詞を知ることでより深みを感じられる作品であるように思う。
日本で上映されたら改めて味わいたいと思った。
映画の広告およびスチール写真は霜花店公式サイトから転載させていただいています。
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